
文部科学省 科学研究費助成事業 「学術変革領域研究(A)」 2024〜2029年度

2025年9月29日から10月1日にかけて、北海道北広島市にて学術変革領域(A)「バイオ超越」の第2回夏合宿を開催しました。合宿の目的は、チームビルディング、共同研究の加速、そして若手研究者の育成にあります。今回は新たに公募班も加わり、第1回を大きく上回る総勢94名(領域メンバー・学生・アドバイザー)が参加し、活気あふれる3日間となりました。合宿では12件の口頭発表と53件のポスター発表が行われ、分野横断的な活発な議論と交流が展開されました。
第2回夏合宿は、分野を超えた知の交流と相互理解を促すことを目的に、若手企画と討論を中心に据えた内容で実施されました。若手企画では、ショートプレゼンテーションやポスターセッション、神谷さんによるチュートリアル講演を通じて、相互理解と基盤となる知の共有が図られました。討論では、次々世代の研究者による新しい視点の発表をはじめ、「自発」や「予測」といったバイオ超越の実現に向けた主要テーマをもとに、多角的な議論が展開されました。
9月29日14:00〜15:35に実施した討論①「次々世代を担う若手研究者による研究紹介」では、秋田さん(A02-4高橋班)、ドゥンキーさん(A02-4池内班)、大友さん(A02-4酒井班)、大浦さん(A03-2神谷班)から、神経細胞リザバーの情報処理容量と臨界性の関係、脳オルガノイドを用いた領野間ネットワークの再構成、3D電極アレイによる立体的な神経活動計測技術、単一軸索レベルでのエネルギー効率解析などが紹介されました。
9月30日13:00〜15:15に実施した討論②「自発活動によるバイオ超越」では、松井さん(A01-2班)、高橋さん(A02-4班)、河野さん(A04-2班)、栗原さん(A01-3班)から、自発活動について、視覚系の階層的神経回路における機能的意義、臨界計算、ハードウェア実装、応答・学習能との関係といった多角的な視点から話題提供が行われました。
続いて9月30日15:30〜17:00に実施した討論③「予測によるバイオ超越」では、平田さん(A04-2班)、香取さん(A01-1班)、船水さん(A03-3班)から、「予測」というキーワードを軸に、周期的刺激に対する運動制御の神経機構、リザバー予測符号化モデル、ベイズ推定と強化学習を統合した意思決定という視点から話題提供が行われました。
10月1日9:30〜10:00の若手企画チュートリアル「電気生理学から脳のエネルギー効率を考える」では、神谷さん(A03-2班)から、神経細胞がNa⁺とK⁺の精妙な協調によって電気的・代謝的に超効率化を実現しているシステムであることを、ユーモアを交えつつわかりやすく解説いただきました。

領域アドバイザーの先生方からは、講評・情報提供として次のようなコメントをいただきました。「自発や予測というキーワードで同じ方向を見据えて研究が進んでいることは非常に意義深い。生物の計算原理に学び、電力効率のさらなる向上を目指す研究が重要である」(合原先生)、「ハードウェアの重要性を改めて痛感している。AIの普及を支えたのは技術の“使いやすさ”であり、ウェットウェアと半導体技術を橋渡しする開発こそが今後の鍵となる」(堀尾先生)、「データの大規模化・精密化、オープンサイエンス化など、神経科学の潮流は生命全体のネットワークを統合的に捉える方向へ進んでいる。常識を超えた発想で“魔法(アーサー・C・クラーク)”を生み出してほしい」(池谷先生)、「次世代研究者の可視化や計画班内外の連携も意義深い。公募班を含めたコラボレーションを継続し、バイオ超越の達成を広く発信してほしい」(細川先生)など、温かくも示唆に富むコメントをいただきました。

今回のポスターセッションは、昨年度に寄せられた「議論の時間をもっと確保してほしい」という声を受け、発表時間を拡大し、1日目と2日目にわたって実施されました。計画班に加え、公募班やアドバイザーの研究室に所属する学生・若手研究者も参加し、50件を超える多彩な発表が並ぶ、活気あるセッションとなりました。冒頭では全発表者が1分間のショートプレゼンテーションを行い、それぞれのリサーチクエスチョンや研究概要を簡潔に紹介しました。その後、食事や休憩をはさんでポスターセッションが行われ、翌朝にも引き続き活発な議論が交わされました。今年度も参加者の投票によって「優秀ポスター賞」が選出され、若手研究者の発表意欲や相互交流を高める良い機会となりました。(文責・A04-2 安川 真輔(九州工業大学))

| 発表者 | 所属(大学/ポジション) | ポスタータイトル |
|---|---|---|
| 藤元 安里 | 千葉工業大学/修士1年 (A01-3 信川班) | 統合失調症における興奮性-興奮性ニューロンの接続分布の特性を組み込んだ リザバーコンピューティングの性能評価と考察 |
| 室田 白馬 | 東北大学/博士2年 (A02-3 平野班) | 人工神経細胞回路の可塑的制御に向けたドーパミン投与実験系の構築 |
| 荒木 峻 | 東京大学/特任研究員 (A03-3 船水班) | マウスにおける概念形成 |
| 鹿島 哲彦 | 東京大学/特任助教 (X01 池谷研) | 感覚皮質回路形成におけるHebb則の検証 |

公募班の先生方も含めて、多くの参加者と議論を交わすことができました。ポスターセッションでは、バイオ系やハードウェア系の先生方や学生の皆さんにも発表を聞いていただけて嬉しかったです。特に、自身の研究のシミュレーション環境について、実際の実験系で取り組んでいる他班の学生と議論できたことが印象に残っています。討論セッションでは「自発活動」や「予測」といったテーマに関する発表を聴講し、生物の脳の高度かつ柔軟な計算能力を改めて実感しました。今後も領域内で議論を活発に行い、「バイオ超越」の実現へ向けて、研究を進めていきます。
田中 柊真(はこだて未来大学/修士1年)
昨年の函館に引き続き、快適な季節を迎えた北海道北広島市で夏合宿を開催しました。今年度から新たに公募班員の仲間を迎え、あえて札幌郊外のホテルでの「合宿」形式とすることで、チームの親睦と目標の共有、新たな共同研究の開拓を目指しました。終始和やかな雰囲気の中、講演やポスターセッションでは遅くまでディスカッションが繰り広げられ、バイオ超越への挑戦に向けた研究がさらに加速していくことを確信しました。「とても雰囲気のいい」若くて熱いチームの一層の発展を期待し、まぶしさに目を細める機会となりました。